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耳鼻咽喉科病例集
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第7回 鼻出血
「チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出る」と言う人がいます。これは根拠のない話です。東洋医学では「のぼせると鼻血が出る」といいます。
西洋医学では、鼻出血の原因の約7割は、鼻をほじったり、風邪をひくなどによる小外傷や、鼻をかむ、くしゃみをする、咳をするなど一過性の脈圧上昇によることで、これらは特発性鼻出血と称されます。その他に、高血圧・白血病等の血液の病気・腫瘍等があります。
鼻出血の好発部はキーゼルバッハ部位と言って、鼻中隔(鼻内を左右に分ける壁)の前下端です。ここには血管が集中しています。
前頭部を冷やしたり、後頚部を叩いて鼻出血を止めようとする人がいますが、止血のポイントは鼻内にティッシュ等の柔らかい物をしっかりつめて、鼻翼(俗に言う小鼻)を強く圧迫して、下を向くことです。上を向くと鼻血がノドにまわり胃に入り、嘔吐の原因にもなります。このような処置をしても鼻出血が止まらない場合は、できるだけ早く最寄りの耳鼻咽喉科へ受診することを勧めます。
第17回 蓄膿症
汚い鼻水が出ると、「蓄膿症になった」と言う人がいます。蓄膿症とは医学的には急性または慢性副鼻腔炎症を指します。原因は風邪等による急性鼻炎、アレルギー性鼻炎、虫歯等を放置することによります。
人間の頭蓋骨には上顎洞・節骨洞・前顎洞・蝶形骨洞という空洞があります。【図1】空洞なので通常、空気が入っています。しかし、炎症が波及すると膿汁が貯まってきます。これが蓄膿症です。症状は膿性鼻漏・鼻閉・悪嗅・頭痛等です。また、副鼻腔の粘膜が増殖し、鼻内に鼻茸(はなたけ)と呼ばれるポリープが出現することもあります。
診断は、レントゲン撮影を施行すれば分かります。治療は耳鼻科で鼻処置とネブライザー、そして抗生剤等の薬物投与ですが、改善がみられない場合は手術です。最近は鼻内より内視鏡下で行うので手術による負担が少なくて済みます。この病気を予防するには、鼻水が出たら放置しない、これが肝心です。お近くの医療機関への早めの受診をお勧めします。
第1回 急性中耳炎
鼻が出たら耳にご用心!
「耳に水が入って耳が痛くなったよ。先生、中耳炎では」と言う方がよくいます。耳に水が入っても鼓膜に穴があいていない限り大丈夫です。実は急性中耳炎の主な原因は鼻です。解剖図で示したように、耳と鼻は耳管で繋がっています。風邪をひいて、鼻の奥で細菌が増殖し、その管を通じて中耳腔に炎症を引き起こすのが中耳炎です。すなわち、鼓膜より更に奥の病気です。症状は耳痛・発熱です。「耳が痛い」と声を発せられない乳児は不機嫌・夜泣きで訴えます。
中耳炎は主に子供の病気です。その原因は耳管の長さが短く、角度が水平で細菌が中耳腔に波及するからです。大人は強く鼻をかむとなりやすいです。
治療は抗生剤・鎮痛剤等を投与します。更に症状が強い時は、鼓膜を切開し、排膿します。鼓膜は切開してもその後の処置をきちんとすれば、再び切開部は元に戻ります。そして、中耳炎の予防に大切なことは鼻の治療です。幼少児の鼻が出ていたら、医療機関への受診をお勧めします。
突発性難聴
突発性難聴は突然耳が聞こえにくくなる病気です。
音とは空気の振動(音波)です。それゆえに、空気のない宇宙では音は伝わりません。解剖図で示したように、耳は外耳・中耳・内耳に区分できます。鼓膜に伝わった音波は耳小骨に伝わり、効率よく内耳に伝達します。内耳はこの振動を電気信号に変えて脳へ送ります。そして、脳で音として自覚します。
この内耳の部分が突然障害されて、聞こえづらくなるのが突発性難聴です。通常は一側性で、両側に生じることはありません。めまいや耳鳴、耳閉感(耳がつまった感じ)を伴うこともあります。
<原因>
現在のところ不明です。 ウイルス説、ストレス説、内耳の血管障害説等が考えられています。
<治療>
原因が不明なので医療機関によって治療方法が異なる場合があります。
- 早期(2週間以内)に診断し、安静。
- ステロイド剤、ビタミン剤、循環改善剤等の薬物投与。
- 星状神経節ブロック。
- 高気圧酸素療法。
<重要ポイント>
- 難聴は一側性、一生に一度(くり返さない)。なお一般的には「突発性難聴は再発しない」と言われており、1度治療してから2度3度繰り返すものは突発性難聴とは言わずに、「低音障害型感音難聴」や「蝸牛型メニエール病」 と考えられています。また反復する場合、聴神経腫瘍(良性の脳腫瘍)の可能性もある。
- 発症から2週間以内の治療開始が重要で、2週間以降に治療を開始した場合、症状の改善は厳しい。
- 耳閉感(耳がつまった感じ)は主に耳管狭窄症であることが多い。
- めまいや耳鳴が伴うことがあるので、メニエル病との鑑別が必要。メニエル病は反復するが、突発性難聴は反復しない。
第15回 アレルギー性鼻炎
自然界からの逆襲
昨今の事情にあいまって、イラクの風景が最近よくテレビに映し出されるようになった。真昼なのに砂嵐でバクダッドの空が暗くなっている。しかしそこは約5,000年前、メソポタミア文明が発祥し、森に囲まれた豊な土地だったはずだ。人々は文明を発展させるため、森林を伐採しレンガを焼いた。その後文明は衰退し、砂漠が残った。
英国といえば、ロビンフッドが活躍したシャーウッドの森など、かつては森林国だった。しかし、1588年アルマダ戦争において、英国海軍はスペイン無敵艦隊を破り世界に進出した。また、1805年ネルソン提督が率いる英国艦隊は、フランス艦隊をトラファルガーで破り、ナポレオンの英国侵入計画は水泡に帰した。英国国民は歓喜したが、新しい病気の発生にはまだ気付いていなかった。軍艦などを造るため、国土の45%の森林を伐採し、牧草地に変えた。そこにカモガヤが繁殖し始めた。
1873年、鼻漏・鼻閉・くしゃみ・微熱が出現し、枯草熱(hay fever)と報告された。花粉症の始まりである。
北米大陸ではブタクサが猛威をふるっている。
日本人は1,500~4,500年前、森林に囲まれて生活し仲良く付き合ってきた。ところが、太平洋戦争で日本の都市は焦土と化した。人々は家を建てるため木を切り出し、林野庁は杉を大量に植林した。1963年、斉藤洋三先生(当時・東京医科歯科大学)がスギ花粉症を報告した。
まさしく自然界からの逆襲である。
現在の日本では2~4月にスギ、3~5月にヒノキ、6~7月にカモガヤ、9~10月にブタクサ、通年性(季節と関係なし)としてハウスダスト・ダニ等によって、アレルギー性鼻炎を発症させることが証明されている。
2004年3月 検査センターニュース2号に記載